三人の物語から見る「島帰り」〜時代劇の役どころシリーズ

大衆演劇のお芝居を観ていると「島帰り」という言葉、よく聞きます。時代劇になじみのない方なら、なんのことかわからないかもしれません。文字通り「島から帰ってきた人」という意味ですが、今回は時代劇の役どころシリーズとして「島帰り」をピックアップし、情報局目線で掘り下げてみました!

「島帰り」ってどんな人?

江戸時代には、「遠島(えんとう)」という罰がありました。罪をおかした人を、海の向こうの遠い島へ送る刑罰です。これがいわゆる「島流し」です。遠島はとても重い罰で、いつまでという期限は決まっていなかったといいます。「赦免(しゃめん)」というお許しが出た時だけ、帰ってくることができました。

もう少しわかりやすく例えるなら、スマホも電話もない時代に、家族や友だちに簡単には会えない海の向こうへ送られて、帰りの日付が決まっていない片道切符を渡されるようなもの。いつ帰れるのか、そもそも帰れるのかさえ、わからなかったのです。

長い年月を島で過ごし、お許しを受けてようやく帰ってきた人。それが「島帰り」です。

島にいる間、その人の時間は止まったまま。でも、ふるさとの時間は、何年も何年も先へ進んでいます。待っている人たちにもたくさんの変化が……。島帰りのお芝居は、流れの違うふたつの時間が交わるところに醍醐味があります。

大切な誰かに会いに行く人、長い時の流れにけじめをつける人、燃えたぎる復讐に帰る人……。島から帰ってきた人の物語を三つ紹介します。

会いに行く人 『赤尾の林蔵』

『赤尾の林蔵』の舞台より

林蔵は、島から帰ってきた赤尾一家の親分です。まだ見ぬ娘のお千代に、ひと目会いたい。溢れる想いが止められず、一直線に娘のもとへ向かいます。離れていた年月を、いっときでも早く会って埋めようと心躍らせる林蔵の温かい情愛。立ち回りや大道具を使った演出なども含め、ぜひ劇場で観ていただきたいお芝居です。

あらすじや出役は演目ライブラリの『赤尾の林蔵』のページでもご紹介しています。

時の流れにけじめをつける人 『源吉島帰り』

『源吉島帰り』の舞台より

源吉は、女房を残して島へ送られた人です。ようやくお許しが出て帰ってきた源吉は、子どもができていたことを知らされます。源吉の時間は、島へ行ったあの日のまま。けれど、残された者たちの時間は、ずっと先へ進んでいました。帰ってきた場所は、もう同じ場所ではなくなっていた……。巻き戻せない時間に、源吉はどうけじめをつけるのか。子役の出演も必見のお芝居です。

あらすじや出役は演目ライブラリの『源吉島帰り』のページでもご紹介しています。

復讐に帰る人 『御子神の丈吉』

『御子神の丈吉』の舞台より

丈吉は、これまでの二人とは帰り方が違います。お許しを待たずに、自分から島を抜け出して帰ってくるんです。これを「島帰り」ではなく、「島破り」といいます。丈吉が島を破ってまで帰ってきたのは、復讐を果たすため。お許しを受けて帰ってきた林蔵や源吉とは、背負っているものがまるで違います。単身かつ小舟で海を渡るということは、生きて帰れるかさえ賭けになる過酷な道のり。それでも彼には帰るべき理由があった――。

あらすじや出役は演目ライブラリの『御子神の丈吉』のページでもご紹介しています。

同じ「島から帰る人」でも

離れていた年月を、会うことで埋めようとする林蔵、流れてしまった時に、けじめをつけようとする源吉、時が流れても消えなかったもののために、帰ってくる丈吉。

三人とも、島にいるあいだに流れた「時間」と向き合っているのでしょうね。向き合い方はそれぞれの登場人物、ひとりひとりで違います。モチーフが同じようでいても、ひとりの人間としての生き様がそのままお芝居のバリエーションになるのがすてきなところですね。

お芝居を観るにあたって、島帰りの人には決まった目印はありません。強いて言えば汚れた着物、旅合羽に三度笠、手甲脚絆にわらじ履きといったところですが、普通の旅人と島帰りにお芝居上の支度の違いがあるか? と言われれば難しいところです。

「島から帰ってきた」「御赦免になった」といった台詞が出てきたら、それが島帰りの人です。もしもすでに観たことがあるお芝居だとしても、「この人は流れた時間とどう向き合うんだろう?」と思いながら観てみると、新しい発見があるかもしれませんよ。

演じる側から見た島帰り

獅子丸若座長に、島帰りの人物の演じ分けはどのようにするのか? と聞いてみました。すると、島帰りだからという理由で意識することはそれほど多くないかも、ということでした。「もともとがどういう人物であるか」という方をより強く意識して演じるようです。役ごとの人柄が大事、というのは確かに納得感がありますね。

『赤尾の林蔵』の舞台より
『源吉島帰り』の舞台より
『御子神の丈吉』の舞台より

三人それぞれの物語を、ぜひ生の劇場で!

会えるのか。けじめはつくのか。復讐は果たされるのか。答えは、ぜひ劇場でお確かめください!

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